書評「新・日本の経営」~日本の企業経営からみる日本の姿~
日本式経営とは何か。この質問を問いかけると、我々はどう答えるべきだろうか。確かに、この質問に対して多くの人は三種の神器などの皮相的な答えをするだろう。しかし、日本的経営という、他と区別される根本的な原因を問われると、答えることは至難の業になる。それは、日本人自らが自分の源流を考えることが難しいからであろう。だから、日本では外国人からみる、いわゆる日本人論が人気を集めてきた。本書はそのような日本人論とは一味違う書籍である。
日本の経営は、1990年頃を境に世間の評価が大きく変わった。日本の経営システムは、80年代までは全世界から注目を浴び、多くの企業のロールモデルになった。しかし、90年代のバブル崩壊後、その奇跡のモデルは不況の元凶になってしまった。著者のジェームス・C・アベグレン氏は日本経営の代名詞である三種の神器の生みの親とも言えるが、本書を通じて、このような被虐的な雰囲気に警鐘を鳴らしている。
著書のタイトルは日本の経営だが、この本は決して経営のみの本ではない。企業の文化や数理的な財務分析はさて置いても、日本の社会問題であるフリーター問題や大学教育問題まで、日本社会のあらゆる分野を深く調査し、一冊の本にまとめた。その全ての問題は日本人、日本文化で繋がっている。
今までの日本経営に関する本は、殆どが日本の悪い面に焦点をあて、失われた10年の原因として取り上げてきた。中には、時代の流れに乗って書かれた凡作が殆どで、要は、最先端の米国経営システムを取り入れるべきだと主張している。それで、既存の日本型システムを守る企業は時代遅れであり、大量の解雇やハゲタカによる企業買収、そして昔のシステムを否定することが相応しい日本企業の未来だと言わんばかりにしている。このような時代の流れに、本書は、米国人の観点から-もちろん日本国籍を取得し、日本人の立場から本書を執筆されたが-日本人に日本経営の素晴らしさを訴えている。筆者の日本に対する愛情は本書の隅々から感じられる。時には現状を不安げに見て叱責し、また時には称賛を惜しまない。書中で一貫して主張することは日本人の素晴らしさ、そして日本経営の偉大さである。これは日本人に対する愛情なくては書かれないものであろう。
ただ、本書はあくまでも欧米とヨーロッパとの比較が大きな軸になっており、日本文化の原点ともいえるアジアとの関係が比較的に少ない。もちろん所々に中国やアジアを関連付けながら意見を述べているし、また本書の大きな目的の一つは日本経営を欧米のシステムと対比することなので、アジアの文化との関連性を求めることは少々無理な話かもしれない。日本経営とアジア文化の関連性に関しては別の形で研究していただきたいが、残念ながら筆者は故人になったため、これは別の学者に期待したい。
本書は日本の経営や企業だけでなく、その背景にある日本社会の全てを説明している。だから、経営学を専攻する人でなくても、日本に関心を持っている人なら誰でも興味を持って読めるはずだ。本書を熟読したら、日本経営とは何かという質問に答えられると信じる。そして、現代の日本社会を理解するのに最もいいということで、本書は読む価値のあると自信を持って言えよう。
「新・日本の経営」、ジェームス・C・アベグレン、2004年12月10日、日本経済新聞社